「貧血ではない」と言われた人の鉄不足

健診の結果表には「異常なし」と印字されている。
それなのに、階段を上がると息が切れる。
夕方になると、頭が働かない。

そういう相談を、私はよく受けます。

はじめまして、桑野真央と申します。
臨床検査技師として12年、健診センターと総合病院の検査室にいました。

気にかかっていたのは、基準値をわずかに上回るせいで何も言われずに帰っていく方の多さです。
私自身も20代のころ、献血ルームの比重検査で断られてはじめて、自分の鉄が足りていないことを知りました。

健診の「貧血」は、この線で引かれています

厚生労働省が定めた健診検査項目の健診判定値データ基準では、血色素量(ヘモグロビン値)の判定値がこう決められています。

判定男性女性
保健指導判定値13.0 g/dL12.0 g/dL
受診勧奨判定値12.0 g/dL11.0 g/dL

女性は12.0を下回らないかぎり、結果表に指摘は載りません。
12.1という数字は「異常なし」の側にあります。

ただ、この線は病気として扱うかどうかの線です。
体の中の鉄が足りているかどうかの線ではありません。

鉄は、ヘモグロビンより先に貯金から減ります

体内の鉄には、二つの置き場所があります。

  • 赤血球のヘモグロビンとして、今まさに酸素を運んでいる鉄
  • 肝臓などに蓄えられている貯蔵鉄。この量を反映するのが血清フェリチンです

鉄が足りなくなると、体はまず貯蔵鉄から取り崩します。
ヘモグロビンを最後まで守ろうとするからです。

裏を返せば、ヘモグロビンが下がりはじめた時点で、貯金はすでに底をついています。

日本鉄バイオサイエンス学会の鉄欠乏性貧血の診療指針では、貧血がない状態で血清フェリチンが12ng/mL未満のものを「潜在性鉄欠乏」と呼んでいます。

先ほどの判定値の一覧に、フェリチンという項目はありません。
私が検査室で回していた基本項目にも入っていませんでした。

ヘモグロビンだけを見て「貧血ではありません」と言われた方に貯金が空の人が混ざるのは、この仕組みのためです。

足りていない量は、1日あたり4mg前後

厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2025年版)が示す鉄の推奨量は、次のとおりです。

対象推奨量
女性 18〜29歳(月経あり)10.0 mg/日
女性 30〜49歳(月経あり)10.5 mg/日
男性 30〜49歳7.5 mg/日

これに対して令和6年国民健康・栄養調査による実際の摂取量は、20代と30代の女性が6.3mg、40代が6.6mgでした。

4mg前後、届いていません。

これは心がけの問題ではありません。
鉄の多い食品は、レバーや赤身の肉、あさりのように毎日の食卓へ上がりにくいものに偏っています。

だからこそ、飲み物から少しずつ足す考え方が出てきます。
1杯あたりの量は多くありませんが、毎日続くぶんだけ積み上がります。
何にどれくらい含まれているかは、鉄分の多い飲み物を種類ごとに整理したページが参考になります。

まとめ

健診の「異常なし」は、鉄が足りている証明ではありません。
ヘモグロビンが基準を保っていても、その裏で貯蔵鉄が減っていることがあります。

立ちくらみや息切れが続いているなら、内科でフェリチンを測ってもらう選択肢があります。
数値が出れば、食事で様子を見るのか治療が必要なのかの判断もつきます。

そのうえで、食事と飲み物から少しずつ足していく。
検査室で数字を見てきた立場から言えば、この足し算が次の結果をいちばん確実に変えます。

最終更新日 2026年9月4日 by isujin


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