雨上がりの朝、現場に立ち込める鉄骨と土の匂い。
親父が営んでいた工務店で、幼い頃から嗅いできた大好きな匂いです。
クレーンが動き、職人たちの威勢のいい声が飛び交う。
この活気こそが、日本のものづくりを支えてきた原風景だと、今でも信じています。
しかし、その裏側で「人手不足」という静かな危機が、足音もなく現場に迫っていることに、私たちは気づかなければなりません。
私の父の工務店は、「腕は一流でも、時代の変化に対応できなかった」ために、その歴史に幕を下ろしました。
技術だけでは、大切な現場の未来は守れない。
あの日の悔しさが、私の原点です。
この記事は、テクノロジーという言葉に、どこか冷たさや不安を感じているあなたのために書きました。
読み終えたとき、テクノロジーが現場を奪う「敵」ではなく、職人の手のぬくもりを守るための最高の「相棒」であることを、きっと感じていただけるはずです。
Contents
なぜ今、“共創”が必要なのか? ~データが語る建設業界の待ったなしの現実~
「うちは昔ながらのやり方でやってきたし、それで十分だ」
そうおっしゃる親方たちの気持ち、痛いほどよく分かります。
ですが、少しだけ耳を傾けてください。
今、私たちの足元では、無視できない構造変化が静かに、しかし確実に進んでいます。
10年後、あなたの現場からベテランが消える?
衝撃的なデータがあります。
現在の建設業界では、働いている人のうち約36%が55歳以上です。
一方で、未来を担うはずの29歳以下の若者は、わずか12%ほどしかいません。
これは何を意味するのか。
あと10年もすれば、現場を支えてきた熟練の職人さんたちが、ごっそりと現場を去っていくということです。
長年の経験で培われた「暗黙知」や「感覚」。
それらを若手に継承する時間が、もういくらも残されていないのです。
「2024年問題」は序章にすぎない
「2024年問題」という言葉を、あなたも耳にしたことがあるでしょう。
2024年4月から時間外労働の上限が規制され、多くの現場で「今まで通り」が通用しなくなりました。
しかし、これは始まりに過ぎません。
根本にあるのは、限られた人数で、いかに生産性を上げ、質の高い仕事をしていくかという、より大きな課題です。
人手不足を根性論で乗り切る時代は、もう終わりました。
働き方そのものの「設計図」を、今こそ見直す時なのです。
若者が本当に求める「新3K(給与・休日・希望)」に応えられているか
かつて建設業界は「きつい・汚い・危険」の3Kと言われました。
今は違います。
「給与・休日・希望」という“新3K”が、若者たちを惹きつける新しい基準になっています。
彼らは、自分の仕事に誇りを持ちたいと願っています。
家族との時間を大切にし、この業界で働き続けることに明るい未来を描きたいのです。
この希望に、私たちは応えられているでしょうか。
テクノロジーとの共創は、そのための最も確かな「基礎工事」になると、私は信じています。
テクノロジーは現場を冷たくする? 私がかつて犯した“大きな過ち”
「テクノロジーで現場は変わる!」
建設テックの会社を立ち上げた当初、私は本気でそう信じて疑いませんでした。
しかし、現実は甘くありませんでした。
良かれと思って最新のシステムを導入した現場から、次々と上がってきたのは感謝ではなく、戸惑いや反発の声だったのです。
失敗談:良かれと思って導入したシステムが、なぜ現場の反発を招いたのか
「杉原さん、こんな難しいの、現場じゃ使えないよ」
「前より手間が増えて、仕事にならん」
3社連続での契約解除。
頭をガツンと殴られたような衝撃でした。
当時の私は、現場をデータでしか見ていませんでした。
効率化という数字ばかりを追いかけ、「現場は人で動いている」という、あまりにも当たり前のことを見失っていたのです。
画面の中の数字ではなく、泥にまみれて働く一人ひとりの職人さんの顔を、私は見ていませんでした。
誤解1:「ITは仕事を奪う」という不安への本当の答え
職人さんたちが抱く「仕事が奪われるんじゃないか」という不安。
これは当然の感情です。
しかし、私たちが目指すのは、人の仕事を奪うことではありません。
むしろ逆です。
人にしかできない、本当に価値ある仕事に集中できる時間を生み出すこと。
例えば、単純な書類作業や報告業務をテクノロジーに任せることで、職人さんはもっと施工そのものに向き合えるようになります。
テクノロジーは仕事を奪うのではなく、誇りある仕事の時間を取り戻すための道具なのです。
誤解2:「どうせ使いこなせない」という諦めを乗り越える設計図
「新しい機械は苦手で…」という声もよく聞きます。
この気持ちを無視して、複雑なシステムを押し付けても、現場が混乱するだけです。
それは、私が犯した過ちそのものです。
大切なのは、現場が「これならできそう」と思える、シンプルな一歩から始めること。
いきなり家を建てるのではなく、まずは小さな犬小屋から作ってみるようなものです。
操作が直感的で、明日からすぐに使える。
そんな、現場に寄り添ったテクノロジーでなければ、本当の意味で現場の力にはなれません。
現場の声から生まれたテクノロジーこそが「本物」である理由
失敗のどん底で、私は現場を回りました。
200社以上の経営者や職人さんに頭を下げ、彼らの本当の悩みを聞いて回ったのです。
「毎日の写真整理が一番しんどい」
「図面の変更連絡が全員に行き渡らなくて困る」
こうした生の声こそが、私たちの進むべき道を照らす灯台でした。
机の上で考えた理想のシステムではなく、現場の「困った」から生まれたテクノロジーこそが、血の通った「本物」のツールになる。
この経験が、今の私の会社のすべての製品の礎となっています。
現場の”手のぬくもり”を支えるテクノロジーの「足場」
では、具体的にどんなテクノロジーが、現場の未来を支える「足場」になるのでしょうか。
ここでは、すでに多くの現場で活躍している3つの事例を、現場の言葉でご紹介します。
事例1:【技術の継承】BIM/CIM – ベテランの暗黙知を、若手のタブレットへ
BIM/CIM(ビム/シム)と聞くと、難しく感じるかもしれませんね。
簡単に言えば、「建物の立体的なデジタル設計図」です。
これまでの2Dの図面では、ベテラン職人さんが頭の中で組み立てていた配管の納まりや鉄骨の干渉チェック。
そうした「経験がないと分からないこと」が、誰の目にも明らかに分かります。
若手の職人がタブレットを覗き込みながら、
「なるほど、この配管はこう通せば、後工程のダクトとぶつからないのか!」
と、まるで目の前に実物があるかのように理解できる。
BIM/CIMは、ベテランの頭の中にあった暗黙知を、誰もが見える形にする技術です。
これは、技術継承の課題に対する、極めて強力な答えの一つです。
事例2:【時間の創出】IoT工程管理 – 「段取り八分」をテクノロジーで科学する
「段取り八分、仕事二分」とは、昔から現場で言われる言葉です。
この最も重要な「段取り」を、テクノロジーが強力にサポートします。
IoT、つまり「モノのインターネット」を使えば、どの建機が今どこで動いているか、どの資材がいつ現場に搬入されるかが、リアルタイムで把握できます。
- 重機を待つ無駄な時間
- 資材が足りずに作業が止まる時間
- 電話で何度も確認する手間
こうした、現場の生産性をじわじわと蝕む「見えない時間泥棒」を、IoTは一掃してくれます。
職人さんたちが、本来の腕を振るうべき作業に集中できる環境を整える。
これもまた、テクノロジーにしかできない大切な仕事です。
事例3:【安全の確保】AI危険予知 – 熟練工の”第六感”を、すべての作業員の目に
熟練の職長さんは、現場のわずかな異変を察知する“第六感”を持っています。
「あそこは足場が悪いから気をつけろよ」
「そのやり方は危ないぞ」
その一言で、どれだけの事故が防がれてきたことでしょう。
AI(人工知能)を搭載したカメラは、この熟練工の目を、ある意味で再現します。
ヘルメットを被っていない作業員を検知したり、重機の危険範囲に人が立ち入ったりすると、瞬時に警告を発してくれるのです。
もちろん、AIが職長さんの代わりになるわけではありません。
しかし、熟練工の安全への配慮を、24時間365日、現場の隅々まで行き渡らせる強力なサポーターにはなれるのです。
明日から現場でできる「共創」への小さな一歩
ここまで読んで、「理屈は分かったけど、何から始めれば…」と感じているかもしれませんね。
大丈夫です。
大きな改革は必要ありません。明日からできる、本当に小さな一歩からでいいのです。
まずは「紙」を一つだけデジタル化してみる
いきなり高価なシステムを導入する必要はありません。
例えば、毎日書いている作業日報や、ヒヤリハット報告書。
そのうちの一つを、無料のアプリや共有フォルダを使ってデジタル化してみましょう。
スマホで写真を撮って報告するだけで済むようになれば、事務所に戻ってからの作業がどれだけ楽になるか。
その小さな成功体験が、次のステップへの大きな原動力になります。
職人さんと「一番面倒な作業」について話す時間を作る
次の現場ミーティングで、5分だけ時間を取ってみてください。
そして、みんなにこう問いかけるのです。
「毎日やってる仕事の中で、正直、一番面倒くさいことって何?」
そこから出てくる声にこそ、DXのヒントが隠されています。
現場が本当に求めているのは、壮大な未来予測ではなく、目の前の「面倒」を解決してくれる、ささやかな手助けなのです。
無料ツールや自治体の相談窓口を「試運転」する
今は、無料で使える優れたビジネスチャットやタスク管理ツールがたくさんあります。
また、多くの自治体で中小企業向けのIT導入相談窓口が設けられています。
まずはそうしたサービスを「試運転」してみるのがおすすめです。
お金をかけずに、自分たちの現場に何が合うのかを見極める。
車を買う前に、試乗してみるのと同じです。
さらに一歩進んで、採用や経営管理といった、より専門的な課題解決を目指すのであれば、テクノロジーで建設業界のアップデートを目指すブラニューのような専門企業に相談し、プロの力を借りるのも有効な手段でしょう。
まとめ
私たちは今、建設業界という大きな船の歴史的な転換点に立っています。
人手不足、2024年問題、技術継承。
荒波は次々と押し寄せてきますが、悲観する必要はまったくありません。
なぜなら、私たちにはテクノロジーという、かつてないほど強力な羅針盤とエンジンがあるからです。
この記事でお伝えしたかったことは、たった一つです。
- データが示す業界の危機は、働き方を見直す最大のチャンスである。
- テクノロジー導入の失敗は、現場の「人」を主役に置かなかった時に起こる。
- BIMやIoT、AIは、技術継承・時間創出・安全確保の強力な味方になる。
- 最初の一歩は、現場の「一番面倒なこと」を解決することから始まる。
テクノロジーは、決して現場を冷たくするものではありません。
むしろ、無駄な作業をなくし、安全な環境を整え、ベテランの技を未来へ繋ぐことで、職人一人ひとりが自分の仕事に誇りを持ち、その“手のぬくもり”を次の世代へと残していくための、最高の道具だと私は信じています。
さあ、あなたの現場から、テクノロジーとの新しい共創時代を始めましょう。
その小さな一歩が、日本の建設業の未来を創る、大きな一歩になるはずです。
最終更新日 2025年11月12日 by isujin








